| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-015 (Poster presentation)

水平伝播によって共生相手を更新する双利共生系の維持機構

*内海邑, 佐々木顕

マメ科植物と根粒菌のような双利共生系は宿主が共生者を親から受け取らずに環境中から新しく獲得し直すという特徴があり、水平伝播型と呼ばれている。このような水平伝播型双利共生系は一般的であるが、進化的には維持されにくいと考えられている。それはこの共生が協力せずに利益を搾取する非協力的な共生者の侵入を受けやすく、非協力的な共生者によって宿主との双利的な関係が壊されやすいためである。

進化的に維持されにくいはずの水平伝播型が自然界で普通にみられることから、非協力的な共生者に対抗するための協力の維持機構が存在すると考えられている。その一つが宿主による共生者への制裁であり、実際にマメ科植物と根粒菌(Kiersら2003)などでは制裁と考えられる現象がある。しかし、このような制裁が双利共生系を安定的に維持できるかは明らかでない(Frederickson 2013)。理論的には制裁のコストの有無によって制裁が宿主にとって有利な場合(Westら2002)と、必ずしも有利だとは限らない場合(Fosterら2006)が予測されている。また制裁の存在下における宿主と共生者の共進化動態については十分な研究がない。

本研究では制裁による双利共生系維持の効果を明らかにするため、マメ科植物と根粒菌の共生系の数理モデルを構築した。モデルでは宿主で制裁の有無、共生者で協力の有無という二値の形質を仮定し、制裁をすると非協力的な共生者と手を切り新たな共生者をランダムに選び直せるとした。その結果、共生者の利益-損失比が非常に大きい場合または協力的共生者から非協力的共生者への突然変異率が高い場合に限って双利共生が安定した。つまり制裁があるからといって双利共生系が安定化するとは限らないといえる。また植物から根粒菌への資源提供量が閾値よりも少ないと双利共生系は崩壊してしまうと予想される。


日本生態学会