| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-024 (Poster presentation)
生物は、さまざまな環境の変動に対して、可塑的な応答や迅速な進化などにより適応している。進化と可塑性は、共に生物の形質変化を伴う適応であるが、形質変化の時間スケールおよび自然選択との関係に大きな違いがある。進化は、世代を超えた時間スケールの変化であるのに対し、可塑性では、世代内でも形質の変化が起こりうる。また、進化は、自然選択によって形質が変化するのに対し、可塑性は、自然選択なしに環境変動への応答によって形質の変化が起こる。本研究では、これらの違いを反映するため、進化を複数のspecialist genotypeの頻度変化とし、可塑性を環境応答により形質を変えるgeneralist genotypeと仮定した。そして、Lotka-Volterra 競争モデルをもとにした理論モデルを用いて、環境変動の時間スケールと適応メカニズム(進化と可塑性)の有効性の関係を調べた。その結果、進化と可塑性のどちらが有利に働くかは、可塑性に伴うコストと環境変動の時間スケールに応じて、複雑に変化することが分かった。非常に速く変動する環境のもとでは進化が有利になりやすいが、環境変動の時間スケールが長くなるにつれて可塑性が有利になり、さらに環境変動が遅くなると、再び進化が有利になると予測された。加えて、非常に環境変動が遅い場合には、再び可塑性が有利になることも示唆された。これらの結果は、環境変動の時間スケールに依存して最適な適応メカニズムが異なること、すなわち、変動環境において可塑的に応答する生物は、複数のspecialist genotypeで構成され進化により適応する生物に対して、必ずしも有利になる訳ではないことを意味している。また、変動環境の特性に応じて、可塑性と進化の相対的な重要性が変わることにより、個体群内の遺伝的多様性や表現型多様性が大きく変化するだろう。