| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-048 (Poster presentation)
シロアリのニンフは生殖虫へ分化可能な利己的カストであり、ワーカーは繁殖機会をほぼ持たない利他的カストである。ヤマトシロアリは単為生殖が可能だが、幼虫がワーカーとニンフのどちらに発生するかの決定にはX染色体上の1遺伝子座の遺伝子型が強い影響を与える。この遺伝子座の効果により、雌雄の有翅生殖虫ペアが創設した通常の初期巣では子はほぼワーカーへ分化するが、メス有翅生殖虫2個体による単為生殖初期巣では、ニンフに分化する子が増えると予想される。そこで、有性生殖・単為生殖初期巣を作成・飼育し、その特性を比較することで、利他性に関わる遺伝子型の比率の差が、個体やコロニーの適応度に与える影響を調べた。
コロニー創設後初期には、有性生殖初期巣ではほぼニンフ生産がなく、単為生殖巣では5.8‐18%の個体がニンフに分化した。一次生殖虫存在下でも、ニンフは高率(15‐20%)で幼形生殖虫へ分化し、実験終了時までに幼形生殖虫への置換が生じたコロニーの比率は、単為生殖で有意に高かった。幼形生殖虫は高率(46‐80%)で触角に損傷が見られ、一次生殖虫の損傷率は単為生殖巣(71‐82%)で有性生殖巣(6.8‐16%)より高かった。さらに一次生殖虫の幼形生殖虫への攻撃が確認され、幼形生殖虫の死体も5個体確認された。創設後450日時点のコロニーサイズは、単為生殖の方が有性生殖よりも有意に小さく、初期コロニーの生存率も有意に単為生殖で低かった。
単為生殖初期巣では、ニンフ遺伝子型の個体だけが生産されるため、一部の子はニンフ、さらにニンフ型幼形生殖虫へと分化し、生殖虫間の激しい対立を引き起こす。生殖虫間の頻繁な致死的攻撃と、生殖虫の攻撃へのエネルギー投資による産卵数の減少により、単為生殖巣のコロニーサイズとコロニー適応度は減少すると考えられる。