| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-049 (Poster presentation)

カミキリモドキ類のメスが有する“精包破壊装置”:その構造と起源

*橋本晃生,菅原弘貴,林 文男(首都大・生命)

一般に、昆虫のメスの内部生殖器は単純な膜質構造であり、硬化した構造は見られない。ところが、シリナガカミキリモドキNacerdes caudata(コウチュウ目:カミキリモドキ科)のメスの交尾嚢内には、硬化した多数の棘が認められ、そこには、オス由来の大きな精包が形成されていた。精包は交尾嚢内の棘のある部分と接しており、そこで精包は徐々に消失していくと考えられた。一方、近縁種のアオカミキリモドキN. waterhouseiのメスの交尾嚢は膜質のみで、硬化した棘はまったく見られなかった。アオカミキリモドキのオスは、交尾の際、精子と僅かな付属腺物質を授与するのみで、大きな精包の形成はみられなかった。このことから、メスの交尾嚢内にある棘は、精包を粉砕・消化する“精包破壊装置”として機能している可能性が考えられた。カミキリモドキ科全体の中でのメスの交尾嚢内の棘の出現パターンを明らかにするために、25種についてミトコンドリアDNAの16S rRNA領域および核DNAの28S rRNA領域の塩基配列に基づく分子系統樹を作成した。この系統樹を用いて、種ごとに、メスの交尾嚢内にある棘の有無、棘の大きさ、棘の数、オスが形成する精包の大きさなどを比較すると、(1) メスの交尾嚢内の棘は複数回独立に進化し(同一分類群の中で棘のある種と棘のない種が存在)、(2) 棘の発達したグループではオスが大きい精包を形成する傾向があり、(3) 棘の大きさと数にはトレードオフの関係が認められた。こうした現象は、雌雄の拮抗的共進化として説明可能であると考えられる。


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