| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-058 (Poster presentation)

アイノキクイムシの繁殖生態における温度依存性の実証

*藤戸茜(名古屋大・生命農・森林保護),梶村恒(名古屋大・生命農・森林保護)

温度は、生物の成長や繁殖に大きく影響する重要な環境条件である。特に昆虫は温度に対して極めて敏感に反応する。例えば、発育速度や生活環、産卵習性などが顕著に変化する。その生理生態的特性を定量化するには、人工飼育が必要である。本研究では、アイノキクイムシを供試した。本種は養菌性キクイムシであり、樹木に穿孔し坑道(巣)を作り、共生菌を栽培して食物としている。南方系の昆虫で、日本では九州の照葉樹林にのみ生息していたが、近年ではイチジク園で見られるようになり、本州や四国の各地に分布している。

独自に開発した人工飼料を用いて、本種を15,20,25,30,35℃で飼育し、次世代虫数の数や性比、発育日数や坑道の長さなどを調べた。35℃では、全ての供試虫が少し穿孔しただけで死亡した。坑道の作成は主に20~25℃で見られ、25℃が最長であった。次世代生産は15~30℃でされ、このうち15℃以外で成虫まで達した。発育日数は20℃より25℃で短くなり、30℃でまた長くなった。以上の結果から、本種は15~30℃で産卵できるが、20~25℃が発育、繁殖に適していると考えられた。次世代虫の性比は温度で変わらなかったが、態別割合は異なり、温度ごとに産卵ペースが調節されている可能性が示唆された。

観察された発育日数から算出した有効積算温度と発育零点を用いて羽化・発生時期を推定したが、野外での発生・穿孔時期と一致しなかったため、羽化成虫の分散遅延の可能性が考えられた。また、態別の有効積算温度と発育零点も算出し、供試虫の一日当たりの産卵数を推測した。この数は一度激減したことから、2回に分けて産む習性が示唆された。さらに、産卵ペース(産卵期、産卵中断期の長さ)が温度によって違う可能性も見出された。


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