| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-064 (Poster presentation)
活動に不適な冬を越すため、温帯域の昆虫は様々な戦略を進化させてきた。本州産のシロチョウ科の場合、蛹休眠する種が多い中で、キタキチョウを含む4種は成虫越冬している。越冬成虫は秋型と呼ばれ、越冬しない夏型と形態的に区別でき、日長と温度によって決定されるという。しかし、雌雄差があり、成虫の寿命も比較的長いため、晩秋には夏型雄と秋型雄、秋型雌が混棲している。この時の秋型雄は交尾活性をもたないが、秋型雌は夏型雄が求愛すると交尾してしまう。秋型雌は翌春にならないと産卵せず、越冬後には秋型雄と交尾するので、越冬前交尾の適応的意義として、雄の注入物質を越冬中の栄養に用いるという説と、越冬明け直後に雄と出会えずとも産卵できるための精子を得るという説が挙げられてきた。前者の場合、夏型雄の精子は春になって注入された秋型雄の精子との競争にさらされるので、対抗適応している可能性がある。そこで、秋型雌が産卵開始より先に再交尾するかどうかを検証するため、筑波山周辺で、秋型雌を越冬前の11月と越冬後の3~5月に採集し、保有していた精包と精子、卵を数え、精包の形状を観察した。また、両型の雄の有核精子束の長さを測った。過半数の秋型雌が越冬前に夏型雄と交尾しており、越冬明けの3月後半から秋型雄との再交尾が始まっていた。産卵は寄主植物の葉が展開する4月半ばから始まった。蔵卵数は約400個で、秋型雄との交尾の有無に関わらず、越冬明けの秋型雌は受精嚢に約1000本の有核精子を保有していた。したがって、雌は卵を全て受精させられる数の精子を保有していたにも関わらず、産卵開始前に秋型雄と再交尾していたといえる。秋型雌が越冬前に交尾するのは栄養を得るためといえよう。ただし、夏型雄の有核精子束は秋型雄より有意に長く、精子競争への対抗適応が示唆された。