| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-065 (Poster presentation)
スズメPasser montanusの孵化率は非常に低く、6 割程度であることが報告されている。卵の生産にはコストを伴うため、多くの未孵化卵が生じることは非適応的な形質に見える。なぜ、スズメの卵の孵化率はこれほど低いのだろうか? 興味深い現象であるにも関わらず、その要因についてはほとんど分かっていない。そこで、2012年と2013年に秋田県大潟村の村内の防風林および農業倉庫に巣箱密度の異なる3種の区画を設定し、調査を行った。4月中旬から9月中旬に巣箱を定期的に見回り、初卵日や一腹卵数、孵化卵数などを確認した。そして、孵化率に影響する要因として、営巣密度や産卵時期、巣箱の設置場所などのデータを用いて、モデル選択を行った。未孵化卵の性別を推定するために、巣内雛の血液を採取してDNA解析を行い、性比を決定した。孵化雛の性別についてもDNA解析を行った。さらに、未孵化卵の死亡原因を探るため、未孵化卵を回収し、未孵化卵がどの段階で死亡しているかを内部検査した。また、孵卵器を用いた実験を行い、卵の死亡は親の抱卵行動に原因があるか、卵の孵化能力の問題であるかを検討した。分析の結果、営巣密度が高いほど孵化率が有意に低下する傾向が見られた。未孵化卵の約9割では胚発生が全く認められず、孵卵器による実験により卵の胚発生能力の欠如による死亡であることが示された。未孵化卵は遺伝的(例:個体の特徴)もしくは生理的(例:ホルモン)などの要因により生じると考えられる。そして孵化率が低い巣ほど雛性比は雌に偏ったため、受精率もしくは胚発生初期の死亡率に性差があると推定された。高密度下では資源競争や個体間相互作用が強いことから、雌親のストレスが高くなり、雄胚の受精率や初期発生に影響を与えた可能性がある。(本研究は三井物産環境基金より研究助成を受けて行われた)。