| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-080 (Poster presentation)

山形県のニホンザル(Macaca fuscata)の遺伝学的集団構造における階層性

*坂本淳, 千田寛子(山形大・理工), 東英夫(山形の野生動物を考える会), 川本芳(京大・霊長研), 玉手英利(山形大・理)

ニホンザルでは、生態学的手法を用いた研究に基づいて、階層的集団構造モデル(群れ<複数の群れからなる「ポピュレーション」<地域個体群)が、提唱されている。千田ら(2007)は、山形県とその周辺地域におけるニホンザルが4つの分集団からなることを報告し、階層的集団構造が遺伝学的背景を持つことを示唆した。そこで本研究では、遺伝学的集団構造の再検証および、分集団の空間的構造と階層性を明らかにすることを目的とした。

山形県で捕獲された344個体のサンプルを用いて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の調節領域(868 bp)のハプロタイプと常染色体マイクロサテライト9座位の遺伝子型を決定し、集団構造解析を行った。

mtDNAでは、ハプロタイプの地理的分布に年変動は見られなかった。

マイクロサテライトによる集団構造解析では、千田の結果(K=4)とは異なり、5つの分集団(K=5)が示された。GISを用いて空間構造の把握を試みた結果、分集団の主要な局在域が重なりあう地域が観察された。異なる分集団に帰属する個体が同所的に存在する米沢市および小国町は、複数の分集団が交流できるcontact zoneである可能性が示唆された。

さらに「ポピュレーション」内に遺伝学的な集団としての階層構造が存在する可能性を検討するために、複数の「群れ」が確認されている米沢市と上山市で捕獲されたサンプル集団を対象として、STRUCTUREを用いて分集団の有無を調べた。その結果、両地域ともに群れを単位とした遺伝学的分集団はないことが示された。このことから、野澤・伊沢らが提唱した階層構造のうち、複数の群れからなる「ポピュレーション」は、調査地域においては遺伝学的に単一の集団であると結論づけられた。


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