| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-082 (Poster presentation)

ワクチン接種率が感染動態に及ぼす影響

*小林千草, 近藤倫生(龍谷大・理工)

人類史のほとんどの期間において、感染症はその主要な死因の一つであった。公衆衛生の向上・ワクチンの使用などにより感染症による死亡率は低下したものの、インフルエンザや麻疹などの抑制が容易でない再興感染症は今も存在する。感染症の流行の原因の一つとして、ワクチンの効果低迷が挙げられることがある。ワクチンで得られた免疫はしだいに低下するが、感染症に遭遇することで再び免疫が強化されることが知られている。これをブースター効果と呼ぶ。感染症の拡大を抑制するためにワクチン接種は有効な手段であるものの、ワクチン接種率が高くなると、ブースター効果が発揮されにくくなるため、却って免疫力の低下により感染リスクが高まる可能性がある。

ワクチン接種率が感染動態におよぼす影響と感染症の抑制方策を検討するにあたって、本研究では隔離政策とブースター効果に着眼し、SIRモデルを基礎とする数理モデルを構築、解析した。全人口を未感染者、感染者、免疫保持者に区分けし、それぞれの人口動態を記述した。ワクチン接種により未感染者が免疫を獲得し、それによる免疫保持者の増加と、これによって引き起こされる、ブースター効果の低減が感染動態に及ぼす影響を組み込んだ。以上を踏まえて、隔離政策が感染動態に及ぼす影響を調べた。

ワクチン接種率は感染者の動態に影響を及ぼした。未感染者と感染者が共存するのは、ワクチン接種率が低い場合だけであり、ワクチン接種率を高めることで、感染者をなくすことができる。ブースター効果を考慮しても、ワクチン接種率が十分高い状態であれば、病気が再流行することなく感染者は減少する。隔離政策では、未感染者、感染者の間で隔離を行ったときのみ、効果的に感染者を減らすことができることが示された。


日本生態学会