| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-086 (Poster presentation)
マラリア感染症を媒介するハマダラカ(Anopheles) は、種によってマラリアを媒介する効率が大きく異なる。特にモンスーンアジア域では様々なハマダラカ種が生育しており、各種の時空間的な分布の状況は、マラリアのリスク推定や疫学政策にとって重要な情報となる。そのため、主要なマラリア媒介蚊として知られている5種のハマダラカを対象として、一般気象データをもとにモンスーンアジア域の各ハマダラカ種の時空間分布を予測することが本研究の目的である。
本研究は、高い時間解像度を実現するため、各種の生理生態学的特性と気象条件の関係性に着目した個体群動態モデルを用いて、各ハマダラカ種の発生個体数の推移を日単位で推定した。その結果、5種のうち1種のみの発生が確認されている地域では、モデルでの成虫発生個体数は実際の成虫の発生密度の季節的消長をうまく再現できていることが分かった。一方、複数種の同時発生がみられる地域では、実際の成虫発生状況と比較して各種の成虫発生量や発生期間を過大評価していた。これは、複数種が生育する地域では、種間相互作用が各種の生育に影響している可能性が高いことを示している。
そこで、生息地をめぐる種間競争の要素を各種の個体群動態モデルに導入し、再度推定を行った。結果、複数種が同時に生育する可能性のある地域での各ハマダラカ種の発生状況は大きく変化し、実際のハマダラカ成虫の発生状況をいくつか再現できた。ただし、地域によっては競争の要素を含めると発生期間を過小評価してしまうなど、競争以外の要素が各種の発生に影響を与えている可能性もある。今後は生息地の棲み分けや付近からの一時的な移入等の要素が実際の分布に影響を与えている可能性も考慮して、モデルを発展させていきたいと考えている。