| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-096 (Poster presentation)
高山植物には、マルハナバチに送粉を依存しているものが多い。従って、高山の生態系を理解するためには、マルハナバチの花資源利用スケジュールを把握することが重要である。狭い範囲に植生の垂直分布を見せる日本の山岳では、マルハナバチが標高間を移動している可能性も含めた検討が求められる。
本研究では、中部山岳国立公園立山の3つの標高帯でマルハナバチ各種の花資源利用スケジュールを調査し、標高間の比較を行った。調査は、高山帯(2450-2830m,2011-13年)、亜高山帯(1850-2230m,2013年)、山地帯(1250-1630m,2011-12年)で行った。観察したマルハナバチの種名、利用していた植物種の開花数等を、季節を通じて記録した。
その結果、ヒメマルハナバチはどの標高帯でも働き蜂と繁殖カーストが観察され、全ての標高帯で繁殖していると考えられた。これは、ヒメマルハナバチは亜高山帯で営巣・繁殖し、夏の間だけ働き蜂が高山帯へ出稼ぎに来ているという、Tomono & Sota(1997:Jpn J Ent 65:237-255)とは異なる結果であった。一方、オオマルハナバチは、高山帯と亜高山帯では初夏に働き蜂の一時的な増加が見られたのみであった。これは、働き蜂が初夏に花資源の少なくなる山地帯で他種との競合を避け、低標高帯から高標高帯へ採餌に来ているためと思われた。コマルハナバチ、トラマルハナバチ、ミヤママルハナバチは山地帯でのみ多く観察され、ナガマルハナバチは高山帯と亜高山帯で多く観察された。
以上の結果から、マルハナバチの花資源利用スケジュールは山域ごとに異なっており、採餌による標高間移動も種によって異なることが示された。マルハナバチの標高間移動は、異なる標高の植物群集間の送粉者を介した相互作用の可能性を示唆している。