| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-101 (Poster presentation)

イボニシ Thais (Reishia) clavigera の食性から食物網のレジリレンスを探る

*戸祭 森彦(筑波大・生物),今 孝悦(筑波大・生命)

食物網は生態系を構成する重要な要素のひとつであり、生物群集の種組成に応じた形態を成す。近年では、大規模撹乱による種の欠損や、外来種侵入による種の置換などが頻発する事で種組成が変更され、しばしば食物網に変化が生じている。そうした変化は、通常種組成の更なる変更を促進し、それに応じて食物網も大きく改変される。他方、そのような改変に一定のレジリエンスを示す事例もあり、こうした食物網の安定化メカニズムの解明が求められる。イボニシThais (Reishia) clavigeraは、食物網のレジリエンスを担う鍵種になる事が予見される。本種は岩礁潮間帯に広く生息する汎食性の上位捕食者であり、単一餌飼育下でその餌種への選好性を高める事が知られている。このことは、先述の種の置換等が生じた際、本種が生息地の種組成に応じて柔軟に食性を変え、捕食-被食関係を再構築する事で食物網のレジリエンスを保持し得る事を示唆している。本研究では、レジリエンスの前提となる食性変化に焦点を定め、イボニシの食性が生息地の種組成に依存して変化するという仮説を検証した。調査地は、静岡県下田市の3つの岩礁潮間帯とした。先ず、各調査地の種組成をコドラート調査にて検討し、それぞれ種組成が異なる事を確認した、次いで、各調査地からイボニシを採集し、捕食実験および探索実験を行うことで食性を判断した。さらに、炭素・窒素安定同位体分析にて天然環境下での食性を推定し、双方の実験の妥当性を検討した。これら複数の実験の結果、イボニシは生得的に決定された選好性を有するものの、生息地に優占する餌種への選好性を有意に高める事が示唆された。従って、餌種の種組成に応じてイボニシの食性は可塑的に変化し、これが食物網の安定化を導く一因となるのであろう。


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