| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-111 (Poster presentation)

キタゾウアザラシの繁殖後回遊と換毛後回遊における捕食行動と潜水努力量の比較

*吉野薫(総研大),安達大輝(総研大),内藤靖彦(極地研),Patrick Robinson(Univ.California),Daniel Costa(Univ.California),高橋晃周(総研大・極地研)

キタゾウアザラシは、1年に2度、換毛後と繁殖後に採餌回遊を行う。両者を比較すると、換毛後は繁殖地から遠い海域まで、長期間回遊するのに対し、繁殖後は比較的繁殖地から近い海域で、短期間の回遊を行うという違いがある。このような回遊行動の違いが生じる要因を明らかにすることを目的に、キタゾウアザラシの回遊経路に沿った捕食行動を定量的に把握し回遊タイプ間での比較を行った。

換毛期および繁殖期に、カリフォルニア州アニョヌエボ海岸を繁殖地とするキタゾウアザラシのメスの顎に加速度・深度記録計を、頭に衛星発信器を装着した。加速度・深度記録計から潜水時間と顎の加速度スパイク数(採餌イベント数)を、衛星発信器から位置情報を収集した。

繁殖地からの距離が同じ場所で比べると、繁殖後回遊の方が換毛後回遊よりも一日あたりの潜水ポトム(採餌深度)の滞在総時間は有意に長かった。一方、潜水ボトム時間あたりの採餌イベント数は、換毛後回遊と繁殖後回遊の間に有意な差は見られなかった。この潜水ボトム時間あたりの採餌イベント数は、両回遊タイプとも繁殖地からの距離が長くなるに伴い、有意に増加した。

結果より、換毛後回遊においても繁殖後回遊においても、繁殖地から遠い海域へ回遊を行うほうが採餌にとって有利になると考えられる。しかし、繁殖後回遊ではアザラシは比較的近い海域に留まっていた。その代わりにアザラシは繁殖後回遊では潜水努力量を増加させて一日あたりの潜水ボトム時間を長くすることで、餌の獲得の総量を増やしているのではないかと考えられる。回遊間の違いは、換毛のため、一定時期に繁殖地まで戻らなくてはならない時間的制約により生じていることが示唆される。


日本生態学会