| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-112 (Poster presentation)
海洋の堆積物底には甲殻類により形成された多数の巣穴が存在し、形成者以外の底生生物にも空間資源として利用される。なかでも、テッポウエビ類が形成する巣穴をハゼ類が利用する事例は、海洋環境における相利共生の好例として多数の研究例が行われてきた。一方、アナジャコ類が形成する巣穴も多様な共生者により利用され、環境省のレッドリストに掲載される複数のハゼ類による利用も示唆されているが、巣穴利用行動に関する定量的な研究は行われていない。その理由として、フィールドにおける観察が困難であることが考えられる。本研究では、干潟において比較的に多産する準絶滅危惧のヒモハゼEutaeniichthys gilliを対象とし、水槽内に宿主のヨコヤアナジャコUpogebia yokoyaiに巣穴を構築させることにより、その巣穴利用行動の定量的観察を行った。
ヒモハゼは、観察個体のほとんどが巣穴を利用し、平均24%の時間を巣穴内で過ごしたが、その利用は断続的であり、1度の利用時間はおよそ3分であった。宿主としてニホンスナモグリNihonotrypaea japonicaに巣穴を構築させた場合や人工巣穴を用いた場合も、同様の結果となった。一方、アナジャコ類の巣穴共生者であるカニ類のトリウミアカイソモドキSestrostoma toriumiiでは、平均61%の時間を巣穴内で過ごし、巣穴の出入りはほとんど観察されなかった。
本研究の結果、ヒモハゼはヨコヤアナジャコの巣穴を利用する共生者であることが明らかになったが、典型的な巣穴共生性のカニ類と比べて、その利用は断続的であり、宿主特異性も低いことが示唆された。ヒモハゼは干潟表面に生息する小型甲殻類を主食として巣穴外で摂食活動を行い、高密度に分布するアナジャコ類などの巣穴を捕食者回避として、常時、飛び石的に利用していると考えられた。