| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-123 (Poster presentation)
生態系の物理化学的な性質がそこに生息する生物群集を規定する一方で、個体の性質や行動によって生態系の物理化学的な性質を規定する、生態系エンジニアと呼ばれる生物もいる。生態系エンジニアの個体レベルでの環境改変行動の変化が、系全体の動態に大きく影響することも考えられる。この研究は、エンジニア生物の環境改変行動の活発さに影響する要因を明らかにすることを目的としている。
外来種アメリカザリガニは、沈水植物を食べたり切ったりして減少させるという生態系エンジニアとしての性質を持っており、侵入した湖沼で大発生した結果、沈水植物や水生昆虫がほとんど見られなくなったという事例がある。昨年度に行った実験により、水草を切るエンジニア行動には餌動物の隠れ家を減らすことで捕食率を高め、ザリガニの成長率を高める効果があることが示され、これがザリガニの大発生と水生昆虫の急激な減少が引き起こす可能性が示唆された。すなわち、水草を切る行動というアメリカザリガニの個体レベルでの性質が、沈水植物の密度という生態系の物理的な構造の改変を通じて、沈水植物や餌昆虫を含んだ群集の動態を変化させていると考えられる。
今年度は、昨年度の実験結果をもとに、ザリガニの水草を切る行動の活発さに影響する要因として、ザリガニの個体数と餌の密度の2つを検証した。室内の水槽での行動実験により、ザリガニの行動の活発さに対して、餌の密度が高いときに個体数は正の効果をもち、低いときに個体数は負の効果を持つ傾向が見られた。このことから、餌の密度が高いときにはザリガニの個体数の増加がさらにその行動を活発化させるが、餌の密度が低いときには逆に個体数の増加が行動の活性を下げている可能性が示唆された。