| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-126 (Poster presentation)
都市化は、最も顕著な人為的環境改変の一つである。多くの生物は都市化により個体数を減らしてきたが、餌資源の増大や捕食者の減少により個体数を増加させる種もいる。こういった種は、行動や生活史を変えることで都市環境へ適応を可能にしてきたと考えられるが、そのプロセスは明らかになっていない。まずは本来の環境と都市環境で行動や生活史の差異を定量化し、その違いを生み出す要因を特定する必要がある。
北海道に生息するエゾリスは、しばしば都市部の公園でも個体群を維持し、都市化に適応している哺乳類の一つといえる。都市のエゾリスは、少ない天敵や人との高い遭遇頻度のため、郊外の個体と比べ警戒心が低いと予測される。本研究では、エゾリスの警戒心の指標として逃避距離に着目し、その違いに関係する要因を調べた。
2013年秋に北海道の十勝平野において、都市(緑地公園、神社)と郊外(防風林、残存林)の計11か所を調査地とした。調査地ごとにエゾリスの逃避距離を比較し、人口、餌付けの有無、樹木の高さ、被度、および下草の高さが、逃避距離に与える影響を調べた。その結果、予測した通りに都市の個体の方が郊外より逃走距離が短く、近くまで接近できた(都市:8.0m,郊外:18.2m, p<0.01)。また、その違いは生息地の人口よりも、餌付けの有無が強く影響し、餌付けをしている生息地ほど逃走距離が短かった。
この結果から、どれくらいの頻度で人と接近するかよりも、餌付け行為自体がエゾリスの警戒心を弱めている事が示唆された。今後、このような変化が遺伝的に決まっているのか、あるいは学習や可塑性によるものなのか、また、行動の変化と都市への適応との関係について詳細な研究が必要である。