| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-138 (Poster presentation)
野生化ヤギにより撹乱された海洋島では、ヤギ駆除後の植生回復に海鳥の営巣が関係する可能性がある。海鳥の営巣は、その死体や排泄物などを通じて土壌の化学特性を変化させ、結果的に植物の成長に影響する可能性が示唆されている。しかし、このような過程は直接的に検討されておらず、植物の成長に対する土壌を介した海鳥の営巣の効果は不明である。また、これらは営巣がある島とない島との比較という比較的大きな空間スケールにおける研究であり、局所的な海鳥の営巣の効果は不明である。本研究では、海鳥の営巣地までの距離に着目し、植物の成長に対する土壌の化学特性を通じた海鳥の営巣の効果を野外の土壌を用いた栽培実験にて検討した。
調査地は、小笠原諸島媒島の北西部の海鳥の営巣地を含む範囲である。ランダムに選択した85地点から土壌を採取し、そこから最も近い海鳥の巣までの距離を記録した。採取した土壌を用いてギョウギシバを18日間栽培し、乾燥重量を測定した。また、土壌の化学特性(有効態リン酸、pH)を測定した。
海鳥の巣までの距離が近い場所の土壌で栽培したギョウギシバほど収量は大きかった。また、海鳥の営巣地までの距離と土壌の有効態リン酸、pHとの間には有意な関係が見られた。土壌の化学特性とギョウギシバの収量との間には、有意な関係が見られなかった。
本研究の結果から、海鳥の営巣は距離に応じて土壌の化学特性を変化させ、植物の成長を促進する可能性が示唆された。一方、植物の成長に対する土壌の栄養塩量の変化の影響は検出されなかった。これは、「海鳥の営巣による土壌の化学特性の変化が植物の成長を促進する」というこれまで想定されてきた仮説が必ずしも成り立つわけではないことを示唆する。