| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-145 (Poster presentation)

多摩ニュータウンおよび隣接する里山における緑地の質による哺乳類相への影響

*青木沙保里(明治大・農), 倉本宣

高度経済成長に伴う急激な都市化の進展により都市近郊の里山は住宅地や工業用地に分断されてその多くが失われ、生物多様性の損失が顕著となっている。川崎市麻生区の黒川上地区は、多摩丘陵の中でも自然豊かなことで知られている里山である。一方、多摩ニュータウン(以下,多摩NT)は緊急的な住宅不足への対応として建設された大規模なニュータウンである。隣接する両地域の環境は、多摩NT開発以前は類似していたと考えられる。そこで、本研究では多摩NTと黒川における哺乳類相と緑地の質を比較することにより、緑地の質が哺乳類相に及ぼす影響を調査し、今後の都市域における生物多様性保全のための一助とする。

生息する哺乳類を調査するために、自動撮影装置を多摩NT(諏訪の杜緑地・貝取山緑地)と黒川(生態園・西緑地)に計8台設置した。自動撮影装置を設置した緑地内の環境を比較するため、中型哺乳類の移動阻害となり得る地面から0.3mまでの植被率を図る植被率調査と樹林内の階層構造調査から成る撮影環境調査、航空写真上に調査対象地を中心とした半径500mの円を設置し、500m圏内の緑地面積を図る周辺環境調査を行った。

確認された哺乳類は黒川6種、多摩NT2種であった。植被率、樹木数ともに多摩NTが高く、緑地面積は黒川が高かった。植被率が低く樹木数の少ない黒川に哺乳類の種数が多かったことから、哺乳類の多様性に影響を及ぼすものは林内の構造よりも緑地面積によるものが大きく、緑地面積の減少が哺乳類相の貧化を招くことが示唆された。さらに、緑地面積だけでなく連続性という観点において、園田(2008)は連続性の高い森林ほど種が多様になることを明らかにしている。以上のことから、都市域における生物多様性保全のためには緑地面積を確保した上で連続性を高めることが必要と考えられる。


日本生態学会