| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-160 (Poster presentation)

深泥池湿原での水質変化とニホンジカの侵入による植生変化

*鄭 呂尚(奈良教育大学),辻野 亮(奈良教育大学),松井 淳(奈良教育大学)

深泥池は貧栄養な水質の池に高層湿原的なミズゴケ泥炭地が浮島として成立しており、貴重な水生生物群集が発達している。しかし人為活動に伴う栄養塩類の負荷や浮島内へのシカの侵入による被害が問題となっている。2006年に行われた調査では低層湿原種であるヨシやマコモの拡大や、高層湿原植生に特徴的なミズゴケの拡大、シカの影響が示唆された。そこで本研究では、水質とシカの採食圧が深泥池湿原植生に2006年以降どのような影響を与えているのかを研究した。

浮島内のpHは、2006年から2013年にかけて平均5.1から平均5.0へ、開水域では平均6.3から平均6.0に低下した。浮島内のECは、平均45.0 mS/cmから平均31.3 mS/cm、浮島外では平均110.1 mS/cmから平均63.5 mS/cmに減少した。また、浮島全域に160個(1×10m)のプロットを設けて出現種とシカの採食の有無を記録したところ、出現種数は75種から79種に増加した。ミズゴケ類であるオオミズゴケとハリミズゴケは両種とも分布箇所が増加した。特にハリミズゴケの増加は著しく、出現箇所が30箇所から56箇所に倍増した。これは水質が改善したことが原因の一つだと考えられる。シカの採食痕の見られた種は16種から31種に増加した。採食痕がよく見られたヨシ、セイタカヨシ、マコモ、ミツガシワ、カキツバタの衰退が激しく、一方で採食痕がほとんど見られなかったカヤツリグサ科植物の分布箇所が増加しており、シカの採食圧の大きな影響が示唆される。シカは低層湿原種や外来種も採食していることから、一概に悪影響だけがあると言えない。

水質の改善によってミズゴケ類は回復傾向であるが、シカの侵入によって草本植生が大きな影響を受けていることが分かった。良好な水質を維持しつつ、シカの対策を行うことが深泥池湿原の保全に必要である。


日本生態学会