| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-162 (Poster presentation)
岩手県南部の久保川流域には,典型的な里地里山ランドスケープと生物多様性の高い溜池群が残されている.ここでは,近年衰退傾向が著しく,里地里山の健全な水辺環境の指標種であるゲンゴロウも比較的個体数が多い.しかし,一部の溜池には十年ほど前から侵略的外来種ウシガエルが侵入し,ゲンゴロウをはじめとする在来生物への負の影響が強く懸念されている.このため,「久保川イーハトーブ自然再生協議会」による自然再生事業の一環として,2010年より同事業地内の溜池群においてかご罠を用いたウシガエル排除事業が継続されている.
本研究では,同排除事業の記録と現地調査のデータを用いて,ウシガエルが溜池のゲンゴロウ生息量に及ぼす影響および捕獲による排除の効果を検証した.さらに,ウシガエルおよびゲンゴロウの分布図を作成し,これらの結果に基づいて保全への提言を行った.
ウシガエルがゲンゴロウに及ぼす負の影響が最も強いと考えられる,秋を対象として,74ヶ所の溜池において一般化線形混合モデルを用いた統計解析を行った.
解析の結果,ゲンゴロウ生息量に対して,単位排除努力量あたりのウシガエル成体捕獲数(以下,成体CPUE)の有意な負の効果および溜池周辺半径200mの水田面積率の有意な正の効果が認められた.また,面積が800m²未満の小規模な溜池では,2012年秋までの累積排除努力量が同年秋の成体CPUEに有意な負の効果を示した.
したがって,同事業地内では今後も継続的に捕獲圧をかけることでウシガエルの低密度管理によるゲンゴロウの保全が可能であると考えられる.
また,ウシガエルの分布を地図化したところ,ゲンゴロウの保全上も重要なウシガエル未定着地域は,侵入リスクの高い地域と接していた.したがって,今後の対策はその境界線を防衛ラインとして実施する必要がある.