| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-165 (Poster presentation)
大気中のCO2増加が引き起こす海洋酸性化の進行は,多くの生物に影響を与えることが予想されている.中でもサンゴや貝類に代表される海生無脊椎動物の多くは,炭酸カルシウムでできた殻や棲管を持つため,これらの溶出により大きな負影響を受けることが危惧されている.先行研究の多くは熱帯域の造礁サンゴなどを対象にしたものが多い一方,CO2の吸収量が多くより酸性化の影響が深刻であると考えられる寒流系での評価はいまだ少ない.本研究では,寒流系無脊椎動物を対象に,CO2添加がどのような影響を与えるかを検証した。
2013年9,10月にウズマキゴカイ(Neodexiospira brasiliensis),11,12月にカキ(Crassostrea gigas)を用い、それぞれ30日間にわたり飼育実験を行った.実験ではCO2を添加しIPCC (2007)の予測で2100年頃の状況を模した “High CO2”,極端に添加量を多くし2300年以降の状況を模した“Extreme”,また対照区として空気を添加した“Control”の3つの条件の小型水槽で飼育を行い,期間ごとの生存率や成長量を比較した.その結果、ウズマキゴカイでは,極端にCO2の多い条件下では生存率が急激に低下したのに対し,添加区と対照区の間では差が見られなかった.成長量については,添加量の多いほど成長が良くなる傾向も確認された.一方カキでは,条件ごとの生存率に有意な差は見られなかった.
これらの結果は海洋酸性化によって海洋動物が受ける影響は種ごとに多様であり,影響を評価する指標によっても異なることを示している.またCO2添加は必ずしも負効果をもたらすものではなく,場合によっては成長に対して正の効果を与えることも判明した.効果のかかり方については、CO2濃度や添加期間に閾値が存在する可能性も示唆されており、今後更なる研究の展開が必要である。