| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-173 (Poster presentation)
近年、日本各地の湖沼で浮葉植物であるヒシ属の広範囲な繁茂が見られるようになった。ヒシの大規模な群落が、植物プランクトンの減少、水中の酸素欠乏状態、船の通行妨害などをもたらすことが懸念されている。ヒシの繁茂が問題視されている湖の1つとして、福井県にある三方湖がある。この湖ではヒシの刈り取り管理を近年行っているが、湖の生物多様性や生態系機能の維持を考慮した刈り取り方法の開発が求められている。本研究では、そのような刈り取り方法の開発に資するため、開放水面からヒシ群落内部にかけての水質と水生生物の変化を調査した。
ヒシの大規模な群落内に事前に30m四方を刈り取り開放水面を設けた「刈り取り区」と、最初から開放水面にヒシ群落が接していた「開放区」に、トランセクトを2 本ずつ設け、2013年8月に調査を行った。1本のトランセクトにつき、開放水面からヒシ群落内にかけて7つの観測地点を設定し、各観測地点において水質、動物プランクトン、ベントス、葉上動物を調査した。
溶存酸素量は刈り取り区よりも開放区で全体的に高い傾向を示したが、開放水面からヒシ群落内にかけてトランセクト内での変化はなかった。動物プランクトンは開放水面よりヒシ群落内で多く、特に開放水面に近いヒシ群落内ほど多かった。その総個体数の違いは見られなかったが、刈り取り区では開放区よりも多くのカイムシ亜綱が見られた。ベントスは多くの地点で確認できなかったが、現在精査中である。葉上動物はイトトンボ幼虫とハムシが開放区で、巻貝は刈り取り区で多かった。これらの結果から、ヒシの大規模な群落は水中の溶存酸素を低下させるものの、多様な水生生物の生息場を提供していることがわかった。