| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-177 (Poster presentation)

集落柵の設置及び緩衝帯整備がニホンザル農作物加害群の生息地利用に与える影響

*中村勇輝(新潟大・農),望月翔太(新潟大・院・自然研),山本麻希(長岡技科大),村上拓彦(新潟大・農)

毎年、ニホンザル(Macaca fuscata)による農作物被害(以下、猿害)は全国で15億円ほど発生しており、深刻な問題となっている。猿害を効果的に管理していくためには、追い払いや圃場単位での防護柵の設置、長期的なモニタリングなどを複合的に、かつ継続して実施することが重要といわれている。さらに、ニホンザルの適切な管理を行っていくためには、被害防除策などの事業実施後の効果検証やモニタリングに基づいた科学的な管理が必要であるともいわれている。特に被害防除策実施後の効果検証・モニタリングは、次の管理計画を決定するうえで、非常に重要な役割を担う。

本研究では、設置された集落柵(森林と人里との境界部に電気柵を設置し、物理的にヒトと野生動物の境界線を創出したもの)が周辺に生息するニホンザル農作物加害群の生息地利用に与えた影響について検討を行った。そのために、集落柵設置前後における加害群の行動圏およびコアエリアの変化、生息地利用の変化について明らかにした。

対象群の生息地利用の変化を明らかにした結果、集落柵には物理的障害となることで加害群の移動コストを増大させ、行動圏およびコアエリアを縮小させる効果があると推察される。このように、集落柵に一定の効果がみられる一方、集落柵内部(人里側)を集中的に利用する群れが複数存在するとともに、加害群による集落柵を越えての里地利用も確認されている。そのため、今回設置された集落柵は、本来の「野生動物の里地側への侵入を防ぐ」という目的を果たせていないことが明確となった。また、集落柵内部を主に利用する群れでは、集落柵設置前よりも森林部の利用が減少する傾向にあり、集落柵が加害群の森林部への移動を妨げ、加害群の農地への依存度を大きくしている可能性も示唆される。


日本生態学会