| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-181 (Poster presentation)
北海道内においてエゾシカの個体数増加に伴う生息分布の拡大により,南西部に位置する樽前山(1,041m)ではエゾシカの目撃例が増加しており,採食耐性が低い高山植生への被害が予想される.そこで保全対策の基礎資料とするために樽前山の高山植生における,被害発生要因を明らかにし,高山植生被害地点の特定をした.
エゾシカの利用頻度の指標として,樽前山の森林限界以上の高標高域を調査対象区とし, 1メッシュ250m2の 全109メッシュに区分し,メッシュごとにエゾシカの糞の位置と発見数を記録した.調査期間は2012年と2013年の雪解けから高山植生が枯れ始めるまでの6月から9月までとした.記録したデータからエゾシカの糞発見数を踏査距離で割り,メッシュ単位でエゾシカの糞発見率を算出した.樽前山における出現頻度の低い植物種を抽出するために,調査対象区の植生調査を行った.全メッシュあたり10%未満の種を樽前山における保全優先度が高い植物種とした.
糞発見率を応答変数として,平均傾斜角,NDVI,林縁長,林縁からの距離を独立変数として一般化線形モデルによる解析を行った.その結果,林縁長のみが糞発見率と有意に関係があり(p<0.01),林縁長が長くなると糞発見率が高い傾向があった.各メッシュの林縁長から糞発見率の予測値を算出し,予測糞発見率0.1以上を被害危険度が高いメッシュ,0.1以下を要注意メッシュとした.保全優先度が高い植物種分布とエゾシカの被害予測範囲を重ねることにより,樽前山の高山植生被害地点の特定をした.その結果から,樽前山においてエゾシカによる不可逆的な植生改変を防ぐために保全を優先すべき地点を特定できた.