| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-188 (Poster presentation)
本研究では広域を網羅する多種の植物においてシカの嗜好性を定量化し、どのレベルの嗜好性の植物まで食べるのか評価することで、食害の程度を定量的に明らかにし、100kmを越える中部地方の太平洋側から日本海側までの広域で実地調査に基づいて被食圧の分布を明らかにした。また、被食圧の強度に影響を与える要因(気候や地形、土地利用、シカが分布してからの時間)の影響の評価を、一般化線形モデルを用いて行った。
調査で出現した全343種の内、出現頻度などの尺度から信頼できる56種の嗜好性値が得られた。この結果を基に全ラインの被食圧を求めた。被食圧を決める要因として、古くからシカの分布域であったこと、森林が多く、また建物等も多いこと(農地が少ない)、年最深積雪が少ないことが重要で、これらの中では森林面積が被食圧に最も大きく関与した。シカの分布の歴史が古い地域ほど被食圧が高かったこと(36年前と11年前の比較)は、食害レベルが上がるためには時間が必要であり、分布し始めてから10年程度の期間を超えて食害レベルの上昇が続くと考えられる。
森林はシカにとって好ましい環境であり、深い積雪がシカの活動を妨げることが、被食圧の観点からも確認された。また、シカは深い森林より林縁周辺が好適であるとされるが、本研究で建物等の変数が正の要因となっていることは、森林の多い地点で調査したため、森林に山間集落や高速道路、鉄道が少し混在した景観がシカに好適だったことによると考えられる。