| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-197 (Poster presentation)
湿地は、農地拡大に伴い急速に減少しており、その保全が求められている。一般に、生息地間の連結性は生物多様性を支える重要な要素であるため、より有効な湿地保全のためには、個々の湿地だけでなく湿地ネットワークを管理する必要があるだろう。しかし、湿地のネットワーク構造と水生生物の分布の関係はあまり明らかにされていない。
そこで我々は、湿地の生物多様性保全を目的として、湿地間の連結性が各湿地に分布する水生生物(魚類・水生昆虫)の種数に与える影響を、北海道十勝平野において検証した。この際、各湿地が有する連結性の強度は、景観内の湿地ネットワーク全体を維持する上での相対的重要性と定義し、グラフ理論を用いて評価した。対象分類群の移動様式によって重要な連結性のタイプは異なるため、魚類の解析には、流路を介した連結性を、水生昆虫の解析には空間的連結性(i.e., 湿地間の最短直線距離)を採用した。尚、移動能力が結果に与える影響を考慮し、両分類群共に移動能力の高い種群・低い種群の2つに分けて解析した。
本湿地ネットワークにおいて、両分類群共に、移動能力の高い種群でのみ湿地間の連結性と正の相関が認められた。遊泳能力の高い魚類の種数は、流路を介した連結性が高い湿地で、飛翔能力の高い水生昆虫の種数は、空間的連結性が高い湿地で多かった。おそらくこれは、分断化の進行する本景観においても、これらの種の移動能力の高さにより、ソースとなる生息地から好適な生息地へ種の移入が生じていたためだろう。この結果から、湿地ネットワークの保全が、水生生物の種多様性の保全に一定の効果を持つことが示された。連結性のタイプ(流路or直線)により、湿地ネットワーク上で重要な湿地は異なるため、両連結性タイプで重要性の高い湿地を優先的に保全することが、より効果的な水生生物の保全には有効であろう。