| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-212 (Poster presentation)
水田は湿地棲生物の代替生息地として知られているが、農業の集約化により水田の生物多様性は減少している。これに対処するため、生物多様性の保全や生態系サービスの向上を目的とした環境保全型農業が実施されている。環境保全型農業を実施し、生物多様性を高める効果をより大きくするため、本研究では以下の2つに着目した。第1に周辺景観により環境保全型農業の効果が小さくも大きくもなることが知られているため、生物多様性に及ぼす周辺景観の影響を評価する必要がある。第2に水田環境は、農事歴により季節的に変化するため、複数の時期で環境保全型農業の効果を評価する必要がある。
これらを評価するため、水田で優先する捕食者であるアシナガグモ類と餌生物に着目し、複数の時期で周辺の森林率に応じたアシナガグモ類と餌生物に及ぼす特別栽培の効果を明らかにした。調査は、栃木県塩谷町における減農薬栽培と慣行栽培の水田で6月と7月、11月に行った。6月と7月では、田面が灌水され、長角亜目を主とした餌生物が増えるため、アシナガグモ類は水路から田面へ移入し、個体数を増加させると考えられる。11月では、稲刈後で田面が乾燥するため、アシナガグモ類は田面から水路へ再び移入すると考えられる。
アシナガグモ類と餌生物の数は周囲の森林率が高いほど農法間の差が大きくなり、特別栽培で数が多くなった。一方、灌水後の田面で見られた周囲の森林率と農法に応じたアシナガグモ類の空間パターンは、稲刈後の水路では見られなくなっていた。考察では、周囲の森林率が高いほど特別栽培の効果が高まったプロセスと稲刈り後の水路で傾向が見られなくなった理由を議論する。