| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-215 (Poster presentation)
広葉樹二次林においてシカが昆虫群集に与える影響
*藤森雄大, 鈴木牧(東大・新領域)
シカ類は、生態系エンジニアとして森林生態系を起点とする広範な生態系・様々な生物に大きな影響を及ぼす世界的にきわめて重要な種群である。シカの採食による、植生への影響が多数報告されており、また、植生の変化に伴い、その上位の栄養段階にある生物も間接的に影響を受ける事も報じられている。しかし既存研究は限られた種や種群への影響に注目した物が多かった。そこで本研究では、多栄養段階を含む昆虫群集を対象とし、植生への影響を介してシカが様々な栄養段階に及ぼす間接的影響を評価した。
本研究は、房総半島南部のシカが高密度で生息している東京大学千葉演習林のシカ排除実験区、及びシカの生息が1970年代以降確認されていない千葉県君津市鬼泪にて行った。昆虫のサンプリングはFITとピットフォールトラップを用いて行った。また環境傾度として植生、リター量、斜度を測定した。
シカ排除実験区の柵外の植物量は柵内に比べ有意に少なく、一方柵内と鬼泪では植物の量に有意な差は見られなかった。柵内と鬼泪では柵外に比べ、植物食者が多く。この結果は柵内・柵外・鬼泪の植物量の違いと対応していた。柵外では糞・腐肉食者が多く出現したが、これは柵外のみでシカによる糞や脊椎動物の死体の供給があったためと解釈される。腐植食者は柵内及び鬼泪で柵外よりも多く、これはリター量と植被率が柵内で高かった事と対応していた。一方、捕食者や寄生者では低次栄養段階の生物とは異なる複雑な反応がみられた。捕食者は柵の内外どちらにも偏らず、シカの影響に対する傾向は一定しなかったが、その場の餌生物の全個体数に強く依存した。一方寄生者は、一貫して柵内よりも柵外で多く見られた。しかし寄生者の個体数と寄生者以外の個体数には強い相関がみられず、餌個体数以外の要因が強く影響していたと考えられる。