| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-005 (Poster presentation)
植食性昆虫における葉巻きは天敵回避と強い関連がある。特にオトシブミ科では葉巻きの形によって回避できる寄生蜂が決まっていて、葉巻きの作り方と対寄生蜂進化が密接に関連していると推測される興味深い系である。オトシブミ科イクビチョッキリ族は幼虫が基本的に非葉巻き性の潜葉虫で、分子系統解析から、葉巻き行動はその複雑さにも関わらず何度も独立に進化したと推察されている。本族における葉巻きの進化過程を明らかにするためには、「葉巻きを作るために必要な具体的な行動と順番」および「種間での共通性」を知ることが重要だが、行動のパターン解析はまだ未解明な部分が多い。
そこで今回は、これまで報告されていた本族数種についての行動データ(櫻井 1988他)を補う形で新たに観察を行い、葉巻き作製行動を類型化し、種間比較を行った。その結果、葉巻きの形には「とんがりコーン型」と「巻きタバコ型」の大きく2通りがあり、種が違っても形が同じだと作り方も共通する部分が多いことが分かった。即ちコーン型では「葉を複雑に裁断する能力」と「膨圧を保ったまま葉を巻く脚力」が、タバコ型では「葉を巻く」「巻きの端を閉じる」ことに加え「複数回にわたる正確な定位」「巻きの状態に応じた補正」などの高度な調整能力が必要であることがわかった。一連の複雑な行動の共通性は、葉巻き行動の複数回進化説に否定的な結果である。むしろ葉巻き行動の起源はそれぞれの型で1回であり、行動の発現の有無が比較的単純な機構で制御されており、非葉巻き種では発現していないだけだと考える方が妥当だと思われた。また、タバコ型はより複雑な行動シーケンスを必要とすることがわかり、失敗のリスクが高いことが推測され、葉巻き行動を失う進化が起きやすいのではないかと考えられた。