| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-015 (Poster presentation)
海洋島で一般的な進化現象の1つとして,島内の異なる生育環境に適応した生態的種分化が挙げられる.生態的種分化は,地理的障壁による遺伝的隔離なしに,異なる生育環境間での分断化選択と同系交配を促進する交配前隔離によって引き起こされる.小笠原諸島は東京から約1,000km南に位置する海洋島である.個々の島の面積は小さいにも関わらず,複雑な地形に対応するように様々な植生がモザイク状に配置し,複数の生物群において生態的種分化と考えられる事例が報告されている.固有木本種の1つであるシマホルトノキElaeocarpus photiniifoliaは,湿性林から乾性林まで幅広い環境に生育する.これまでの研究で,小笠原諸島父島列島においては,遺伝的に分化した2つのグループが存在し,それぞれが湿性林と乾性林に分かれて分布していることが明らかになっている.そこで本研究では,父島の4集団(隣接した湿性林と乾性林の集団ペア2組)に注目し,集団内・集団間の遺伝子流動について明らかにすることを目的とした.
生殖前隔離に関与する開花期については,2012年6~8月にかけて観察を行った.その結果,父島の湿性林に分布するグループは,乾性林に分布するグループより遅れて開花が始まり,開花のピークは3週間程度ずれていることが分かった.生殖後隔離の有無を調べるため,2012・2013年の秋に果実を採取し,24遺伝子座のSSRマーカーを用いて親子解析を行った.母樹・種子の遺伝子型を決定し,自殖率・グループ間の受粉率等を調べた.その結果,乾性・湿性グループ間の交配と考えられる種子も含まれていた.これらのことから,父島列島の2つのグループ間では遺伝子交流があり,両者の間の生殖的隔離は不完全であることが示唆された.