| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-033 (Poster presentation)

社会性と移動分散の共進化動態

*大槻久(総研大・先導科学)

血縁淘汰理論によれば、周囲の個体との血縁度が高い場合には協力型が、逆に低い場合には非協力型が進化すると予測される。Hamiltonは協力の進化の一つのメカニズムとしてpopulation viscosityを提唱した。これは個体があまり移動分散をしないことで、必然的に周囲の個体との血縁度が高まり、血縁選択により協力が進化するというシナリオで、格子モデル等多くの理論研究がある。

一方で移動分散自体も進化形質である。アブラムシ科のタマワタムシのsoldierはゴールと呼ばれる虫コブ内に留まり利他的なゴール防衛に参加する一方で、intruder型と呼ばれる個体は積極的に他ゴールへ分散し、防衛に参加せず繁殖を行うcheater型の行動を見せる(Abbot et al. 2001)。またアミメアリで労働をしないL-typeと呼ばれる個体の分散率は、協力型に比べ高いことが知られている(Dobata et al. 2011)。前述の血縁淘汰理論によれば、協力型は低い分散率を、非協力型は高い分散率をそれぞれ進化させると考えられるが、このような社会性形質に依存した移動分散形質の進化の理論的検証は少なかった。

そこで本研究では、社会性と移動分散を二つの独立な形質として扱い、空間構造下でそれら二つの形質の共進化動態を調べた。社会性は協力型、非協力型の離散的な二形質を、移動分散は分散率の連続形質を仮定し、その共進化動態を調べたところ、予想に反して協力型と非協力型の双方が分散率を大きい側へ進化させる軍拡競争型の動態を得た。非協力型の高い分散率は、協力型パッチへ侵入し利益を搾取するための適応であると考えられる。一方で協力型の高い分散率は、非協力型から搾取を逃れる適応、および環境収容力に達した飽和パッチから逃れて血縁者間競争を低下させる適応であると考えられる。結果を踏まえ、理論と現象の差異を生み出す要因についても論じる。


日本生態学会