| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-064 (Poster presentation)
鳥類の食性を把握することは、種の生態や生態的機能を明らかにするうえでも、またその種を含む食物網構造を理解するうえでも不可欠である。だが一般に、動物の食物構成を定量的に評価することは容易でない。これまでに用いられているさまざまな食性分析手法はそれぞれに利点と欠点をもっており、複数の手法の結果を総合しながら評価することが必要である。
本研究では、鳥類の食性情報のソースとして市民モニタリングによる観察記録に着目し、その可能性と限界とを検討した。対象データは日本野鳥の会神奈川支部によって収集された18万件以上の観察記録の集成である。これより鳥の採餌行動に関する観察記録を抜きだし、留鳥15種の各種について月別の採食品目比率を算出した。また観察記録中には採食品目が未同定のものも含まれるので、これらを補って推定するベイズモデルも開発して用いた。くわえて推定結果の妥当性を検討するために、過去の文献から対象種の胃内容分析データをまとめて月別比率を算出し、両者の比較を試みた。
モニタリングデータから推定された各種の食性は、これまでに知られている一般的食性とおおよその一致を示した。多くの種では繁殖期の動物性食物から非繁殖期の植物性食物への季節的シフトが認められた。モニタリングデータと胃内容分析による月別採食比率と対照させると、多くの採食品目で一致する傾向がみられた。しかし一部の品目では大きな差がみられ、とくに液果や花蜜で、種によってはモニタリングデータでの比率が胃内容分析での比率を大きく上回った。このことは、液果や花蜜に対しては胃内容分析では過小評価される可能性を示唆している。これらの結果を総合して、モニタリングデータの食性分析手法としての可能性と限界について議論する。