| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-070 (Poster presentation)
ヤマトシロアリでは、幼虫がワーカー(無翅)とニンフ(翅芽を発達させ、生殖虫となるカスト)のどちらに発生するかの決定にX染色体上の遺伝子座が強く影響し、有翅生殖虫が交配で生んだ卵はワーカーへ分化しやすい遺伝子型、単為生殖で生産した卵はニンフに分化しやすい遺伝子型になる。卵の遺伝子型の比率は、コロニーの特性や適応度に影響する事が予想され、実際、メス生殖虫が単為生殖する初期コロニーでは、ニンフ遺伝子個体の存在が生殖虫間の対立を激化させ、コロニーの適応度を下げる(髙津戸、本大会)。本研究では、通常の初期コロニーにワーカー遺伝子型卵(以下W卵)・ニンフ遺伝子型卵(N卵)を導入し、コロニーの特性に与える効果を調べた。
実験では、有翅生殖虫ペアに初期コロニーを創設させ、幼形生殖虫を交配させて得たW卵、あるいは単為生殖させて得たN卵を計100卵になるまで導入した。計50卵を導入した日から120日後に飼育を終了した。
W卵を導入した実験コロニー(n=7)では、ニンフ・幼形生殖虫ともにみられず、一次生殖虫から幼形生殖虫への置換も起きなかった。これに対し、N卵を導入したコロニー(n=8)では、実験終了時に2コロニーでニンフが観察され、5コロニーで生殖虫が幼形生殖虫に置換された。N卵を導入したコロニーのサイズ(平均66.5)は W卵を導入したコロニー(同104.4)より有意に小さかった。N卵導入コロニーでみられる特徴は、単為生殖コロニーと共通する。N卵は一次生殖虫の存在下でもニンフ、さらに幼形生殖虫へと一部が分化し、生殖虫間の攻撃行動を激化させることで、コロニーの適応度を低下させると考えられる。