| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-079 (Poster presentation)
メスが多回交尾を行う生物において,オスはメスの再交尾遅延・抑制を通じてメスを操作する形質が進化しやすい.沖縄県では,不妊虫放飼法に用いるアリモドキゾウムシの累代大量飼育を現在まで約15年行っている.本種のメスは一度交尾するとフェロモン分泌を停止するため,野外では再交尾の機会はほぼ無いとされる.演者らによる先行研究により,増殖系統内のオスの一部で射精物によりメスを早死にさせる操作形質が見つかった.このオスにおける致死的交尾形質は,野外に比べて密度の高い増殖環境に対して,メスの多回交尾を抑制する可能性がある.本種のメスは,精子が不足すると再交尾する精子補充型多回交尾とされる.増殖環境内でメスが多回交尾しているとすれば,それは精子が不足しているからと推測される.初回交尾から時間が経つほどメスは多回交尾しやすくなるか?多回交尾をした場合のP2値は高いのか?オスがたくさんいる条件ではオスあたりの輸送精子数は減少し精子が不足しやすくなるのか?まず,増殖系統メスの再交尾頻度および再交尾した場合のP2値を初回交尾とその7日後で比較した.また,1頭のメスに対し1頭のオス,または複数のオスに一晩交尾機会を与え,メスの受精嚢内の精子数を数えた.その結果,7日後のみメスの再交尾が認められ,そのメスのP2値は高かった.一方,1オスと同居したメスに比べ,複数オスと同居したメスの受精嚢内の精子数は有意に減少した.これらの事から他個体との遭遇頻度が非常に高い大量増殖内では,オス間の競争や干渉により一回の交尾あたりのメスへの精子輸送量が減少し,精子が不足したメスの再交尾頻度が高くなる可能性が考えられた.オスの致死的交尾形質は,大量増殖環境という特殊な条件でのみ見られるメスの再交尾を抑制するための進化である可能性がある.