| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-080 (Poster presentation)
我が国においては、この100年余りで土地改変により湿地の約60%以上が消失したが,湿地を主な生息地とする陸ガニ類もこの影響を強く受けた。しかしこの陸ガニについてはその生態や湿地における生態とその役割はほとんど明らかにされていない。日本に生息する陸ガニの中でクロベンケイガニ(Chiromantes dehaani)は河川流程内において河口から汽水域の上限まで広範囲に分布している種である。そこで本研究の目的は、クロベンケイガニが幅広い生息地をもつことができる要因を明らかにすることである。調査地は石川県南部を流れる大聖寺川流域を選定し,幼生の回遊状況の把握のための幼生(ゾエア・メガロパ)の採集調査、幼生の塩分濃度耐性を調べるための飼育実験、巣穴形成の際に選好される土壌条件調査、生息分布域における巣穴密度調査をおこなった。幼生採集調査では、中流域においてゾエアの流下量よりメガロパの遡上量の方が多いという結果が得られた。飼育実験では、メガロパは淡水に対する耐性をもつが、ゾエアはそれをもたないという結果が得られた。土壌条件調査では、巣穴形成の際、土壌内に含まれる根茎量と土壌硬度において、中程度の土壌を選好しているという結果が得られた。巣穴密度調査では、調査地点間の巣穴密度に有意差は見られなかった。
淡水耐性のあるメガロパがゾエアの流下量よりも多い量で遡上していること、そして生息分布域内において成体は巣穴形成に適した条件(中程度の根茎量と硬度)の土壌を最大限利用していることが本研究で明らかになった。そのため、クロベンケイガニの河川流程内における分布域はメガロパの遡上限界及び河岸における巣穴形成に適した土壌の分布に制限されていると考えられる。本研究ではゾエアの影響を明らかにできなかった。