| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-083 (Poster presentation)
平成25年版森林・林業白書では、シカ・クマなどの野生鳥獣の生息域の拡大などを背景として、野生鳥獣による森林被害が深刻化しており、2011年度の森林被害面積は全国で約9千haと報告されている。このうち、ニホンジカによる枝葉や樹皮の食害が約60%を占めており、森林の有する多面的機能に影響を与える可能性もある。
シカの生息密度の分布状況は、シカを管理していく上で、基本的な情報と考えられる。近年、kriging等の地球統計学的な手法を応用して、シカ生息密度の空間分布を予測する手法が開発されつつある。しかし、シカの生息密度に関する調査は、特定鳥獣保護管理計画に基づき、地方公共団体である都道府県を単位として実施されている。多くの場合、地方公共団体ごとに、異なる年度で調査が実施されており、近接の公共団体の生息密度調査データを、単純にとりまとめただけでは、正確な生息密度分布を求めることはできなかった。さらに、毎年、狩猟捕獲や有害鳥獣捕獲が実施されているため、それらの捕獲数も考慮する必要がある。そのため、都府県境を超えた広域の生息密度分布の解析は、ほとんど実施されていなかった。
そこで、九州本島地方において、シカの特定鳥獣保護管理計画を策定している福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県を対象として、各県の生息密度調査結果に、調査年度や捕獲数などの調整を行い、ニホンジカの生息密度分布状況を示した。その結果、これら5県を対象とした広域のシカ生息密度分布の把握が可能となった。時に、大分県と宮崎県の県境部、大分県と福岡県の県境部、宮崎県と鹿児島県の県境部などで、シカ生息密度の高い地域の存在が明らかになった。このような解析を行うことで、地方公共団体の境界を越えた広域のシカ生息密度分布を把握することが可能になった。