| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-086 (Poster presentation)

魚類寄生性ヒル「エゾビル」のメタ個体群構造:ソースは湧水河川!?

*片平浩孝,山崎千登勢,福井翔,小泉逸郎(北大・地環研)

寄生虫は宿主を生息場所として利用しており、宿主一個体につき一つの局所個体群が生じる。利用される宿主は当然「生きている」ので、好適な生息環境を拠点として、自然下でパッチ状に分布している。

このように寄生虫の個体群構造は宿主の個体群構造と入れ子状の関係にあるため、容易に複雑化する。よって様々な種やスケールでメタ個体群構造が存在すると期待されるが、多くの場合、目的の寄生虫を効率良く採集することは難しく、実証例は未だ乏しい現状にある。

今回我々は、水圏内で生活史が完結する魚類寄生性のエゾビルTaimenobdella amurensisに焦点をあて、広範かつ網羅的な野外調査からメタ個体群構造の解明を試みた。本種は、極東のアムール川水系および北海道の河川に分布し、サケ科を含む様々な魚種から報告されている。その一方で、出現が稀であるため定量的調査がなされておらず、生息場所や宿主利用の実態は不明であった。本研究では、南富良野のシーソラプチ川流域一帯(24地点)を対象に、2013年の6月と10月に魚類を採集し(計6種2345尾)、エゾビルの寄生状況を精査した。

調査の結果、エゾビルは、本地域に優占的に生息するオショロコマを主な宿主とし(全体の寄生率: 6月12.7%, 10月2.7%)、湧水を源流とする支流や湧水が混合する支流、および本流の最上流域のみに出現することが判明した。なお本種の寄生率と寄生数は常に低く、各地点における個体群サイズは小さいと推察された。個体群サイズが小さいとその個体群は消失し易くなるため、本種の分布は基本的に、水温や水量が年中安定した湧水環境に制限されているのだろう。加えて、本地域のオショロコマは支流間を行き来するメタ個体群構造を有することから、宿主に依存したエゾビル個体群間のつながりが生じている可能性がある。


日本生態学会