| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-087 (Poster presentation)

宿主イシダタミガイの生息環境がカイヤドリヒラムシの個体群動態に及ぼす影響

*藤原悠太(東北大院・生命),岩田智也(山梨大学・生命環境),占部城太郎,武田哲(東北大院・生命)

扁形動物門渦虫綱多岐腸目に属するカイヤドリヒラムシStylochoplana pusillaは、潮間帯に生息する巻貝の外套腔の中でよく見られる。青森県陸奥湾の夏泊半島では、イシダタミガイMonodonta labioを主要な宿主としており、宿主の生息環境が異なるとその寄居率、また寄居個体数が異なるということを前年の大会で発表した。

本研究では2010年10月から2012年11月まで、転石および潮溜まりの異なる2つの環境下でイシダタミガイとカイヤドリヒラムシの個体群動態を比較することにより、本種が潮間帯へ進出した要因について検討した。本種は7~8月にかけて性成熟し、宿主を出て産卵、8~9月に体長1㎜前後の幼個体が大量に寄居することがわかった。幼個体は翌年の夏期にかけて約5㎜まで成長した。このような繁殖周期と成長パターンは転石でも潮だまりでも同じであった。また安定同位体解析の結果は、本種は餌資源を宿主に依存しておらず、外部で餌を摂っていることを示した。

宿主1個体あたりのカイヤドリヒラムシの新規寄居個体数は、転石に比べて潮溜まりの方でより高いことが分かった。しかし、その後の生残率は潮溜まりで低く、翌年の産卵期前には両環境間でイシダタミガイ1個体あたりで見られる成熟個体数に大きな違いは見られなかった。潮だまりで寄居後の幼個体の生残率が低いのは、摂食活動等のために宿主から出ることが一因であると考えられた。潮間帯よりも安定的な潮下帯では捕食圧がより高いことが知られている。カイヤドリヒラムシはこのような高い捕食圧を回避するように潮下帯から潮間帯へと生息場所を変え、半自由生活に近い性質を持ち、イシダタミガイの外套腔に住み着くという片利共生型の生活様式を発達させてきたのかもしれない。


日本生態学会