| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-088 (Poster presentation)

ヤクシカにとって適切な管理ユニットとは? ―島内の遺伝的空間構造に着目して

*寺田千里(北大・FSC), 矢原徹一(九大・理・生物),黒岩亜梨花(九大・理・生物),齊藤隆 (北大・FSC)

遺伝的交流が限られている集団はそれぞれ別の進化を遂げる可能性があるため、それぞれの集団を分けて認識する必要がある。集団を分けて認識する方法として集団遺伝学的解析をもとにした管理ユニットが提唱されている。一方、個体数が急増した生物種に対しては行政区分などをもとにした人為的な管理ユニットが設定され、実際の管理は行われている。人為的に設定した管理ユニットでは、対象種の分集団構造を反映せず、生物の動態を考慮しない非効率な管理体制となったり、局所個体群の絶滅による遺伝的多様性の喪失をまねいたりする可能性がある。この問題を考える上で個体数増加が著しい屋久島のニホンジカ個体群を利用した。マイクロサテライト(ms)12遺伝子座およびミトコンドリア(mt)DNA D-loop領域の998bpを使ってGENELANDで遺伝子流動が制約されていると考えられる集団を空間的に分け、実際に使われている人為的な管理ユニットとの比較を行った。その結果、msでは、1)北部から南東部地域、2)南部から西部地域、3)北西部地域の3集団に分かれた。またmtDNAでは、i)北東から南西地域、ii)北西部地域、iii)北部地域、iv)北東部地域の4集団に分かれた。母系集団を反映するmtDNAの結果では、msより多くの分集団構造がみられ、地域に特異的なハプロタイプも存在したことから、メスは狭い地域に定住していると考えられた。現在屋久島では6つの地域に区分して保護管理計画が実施されているが、今回の結果とは一致しなかった。効率的な保護管理やシカ自体の遺伝的多様性の保全のためには、本研究で得られた遺伝的空間構造をもとにした区分が必要であろう。


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