| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-090 (Poster presentation)

砂質干潟に棲む十脚甲殻類(ハルマンスナモグリ)の幼生の自己回帰率に及ぼす輸送・生残過程の影響:粒子追跡数値モデルによる解析

*中野 善(長大院水・環), 玉置昭夫(長大院水・環)

天草灘富岡湾干潟の優占種ハルマンスナモグリは他種個体群の盛衰に関る種であるため、干潟生態系の保全を考えるうえで、本種個体群動態の解明は重要である。本種生活史には浮遊幼生期があり、幼生は海流に運ばれ親 / 他個体群に回帰し個体群間を連結している。本干潟の回帰率は 0.1% と推定されているが、生残率は不明である。また、幼生放出から 25 日目以降に変態したデカポディッド期幼生は夜間、表層に多く存在するが、表層は深層より物理環境の影響が強く海流が不安定になるため、干潟回帰に臨む幼生には不利な環境である。本研究では実海域の生残率・幼生が表層に存在する要因を流動場再現計算と粒子追跡計算を用いて追究した。

流動場再現計算と粒子追跡計算では、Princeton Ocean Model により有明海~五島列島西方の海域を再現し、再現流動場で幼生生態情報を考慮した粒子を放流・追跡した。考慮した条件は、鉛直移動、変態確率、着底とした。粒子追跡では、①富岡湾と 19箇所の干潟域に、各干潟の個体群サイズに基づいて計 14 万個の粒子を配置し、浮遊幼生期を通して計算した。また②天草灘全域の水深 2m に粒子 1 万個を配置しデカポディッド幼生期間を対象とした計算と③水深を 22m に変更した計算を行った。なお生残率は 100% とした。

①と回帰率 0.1% から生残率が推定可能となった。②と③の富岡湾への回帰粒子の軌跡は②が③より遠方から回帰したことを示した。また、②の回帰粒子の初期配置と①の変態開始日における富岡由来粒子の分布は概ね一致していた。以上より、幼生が遠方から回帰するためには、表層の強い潮流が必要であり、これを利用するために幼生は表層に浮上していると考えられた。


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