| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-094 (Poster presentation)
化学物質の生態影響を個体群レベルで評価する利点は、①生態学的な意味が明確であること、②様々な毒性反応を個体群増加率の減少として同じ基準で評価できることにある。特に後者は、毒性反応が他の化学物質と異なる内分泌かく乱化学物質の生態リスクを評価するうえで重要である。本研究では、ミジンコの性比かく乱作用(単為生殖世代においてメス仔虫がオス化する)と一般的な繁殖毒性(産仔数の減少)のリスク比較を個体群モデルによって試みた。全体の解析は、①性比かく乱を予測する「性変換モデル」②繁殖阻害率を予測する「繁殖影響モデル」③これらの反応から個体群増加率の低下を推定する「齢構成個体群モデル」からなる。性変換は胚発生の特定時期に限られるため、感受期特異的な性変換モデルを作成し、ベイズ統計に基づくマルコフ連鎖モンテカルロ法によってパラメータ推定を行った。繁殖影響モデルとしては、動的エネルギー分配モデルを採用した。このモデルでは、化学物質の繁殖阻害は、繁殖系に作用する直接効果と個体成長を阻害して繁殖を低下させる間接効果によって生じる。オオミジンコ (Daphnia magna)によるピリプロキシフェン(昆虫成長制御剤)の繁殖阻害試験結果をもとに、個体群増加率に対する毒性影響を推定した。化学物質の環境中濃度のシナリオとして、定常曝露濃度と濃度の急激な変動を伴うパルス曝露濃度を仮定した。
個体群シミュレーションの結果、曝露シナリオによらず、性比かく乱は繁殖阻害と同程度以上の個体群レベル効果をもたらすと予測された。曝露濃度の時間変動は、繁殖阻害の個体群レベル効果を大きく左右した。繁殖阻害による個体群増加率は、曝露濃度の減少より曝露期間の短縮化によってより敏感に回復し、生態リスクの低減には、化学物質の濃度の低下より曝露期間の短縮化の方が有効であることを示唆した。