| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-021 (Poster presentation)
地衣類とは菌類と藻類の共生体であり、菌類は生息場所を、藻類は光合成産物を提供している。地衣類はこの共生関係により無機物の上でも着生し、生育できるため、パイオニア生物として捉えられている。パイオニア生物は生息域周辺の環境を物理的に変化させる生態系エンジニアとして働く。地衣類も生態系エンジニアとして他の生物の多様性を支えているため、地衣類の多様性パターンを理解することは、生物多様性創出機構解明の一助となりうる。
地衣類の多様性パターンに関して、樹幹着生地衣類の種数は標高に沿って減少していくことが知られている。しかし、他の生物が定着しづらい”岩”という場所でも生育できる岩上着生地衣類の研究はよく知られていない。また蘚苔類も岩上に着生するため、両者の空間的な占有パターンを研究することは種多様性を探る上で価値があるとされている。そこで本研究では標高に沿った岩上着生地衣類と蘚苔類の被度と種数の変化を調査し、空間スケールを変えて多様性を評価することを目的とした。
本研究は信州大学付属の西駒演習林で、10cm×10cmのコドラートを用いて被度と種数を測定した。その結果、標高に沿って岩上着生地衣類の被度は増加し、岩上着生蘚苔類の被度は減少した。これは蘚苔類と地衣類間に光競争が生じたためである。また岩上着生地衣類のγ多様度は中標高で、α多様度は森林限界以上で高かった。これは中標高で生じる吹きだまりが地衣類の生育に好適な条件であり、また森林限界以上で蘚苔類が存在しなかったためである。さらに岩上着生蘚苔類の被度が減少すると岩上着生地衣類の種数が増加した。これは蘚苔類の被度が減ることで地衣類の侵入する空間ができたためであると考えた。