| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-024 (Poster presentation)
植物寄生菌が北極で寄生生活を営んでいくことは容易ではないと考えられる。なぜなら、北極の低温、少雨、短い無雪期間等は生物にとって厳しい環境であると同時にそこに生育する植物は短い着葉期間や矮小化といった生態学的特徴を持つため、植物寄生菌はそれら物理環境と宿主植物の特徴の両方に応答して寄生活動を行なわなければならないからである。本研究では、高緯度北極域に位置するノルウェー・スピッツベルゲン島(79˚N)を調査地とし、キョクチヤナギの葉に寄生する子のう菌Rhytisma polarisを研究対象として、その分布や生態および宿主植物への影響を調査することで、本種が北極ツンドラの物理環境や宿主植物にどのように応答しているかについて明らかにした。
R. polarisの生育を困難にする条件として、宿主植物の短い着葉期間と少ない降雨という2つの環境要因が考えられた。本菌は成熟の早期開始や速い増殖速度によって、宿主の短い着葉期間に対応していた。また、少雨のツンドラ環境では、本菌は子実体成熟などの繁殖ステージを行う際に雪解け水を利用していることが示唆された。その結果、本菌の分布場所は雪解け水が安定的に供給される場所に限られ、毎年同じヤナギ個体に繰り返し寄生していた。同個体へ繰り返し感染することは宿主植物へ大きな負担を与える可能性があり、宿主を死に追いやれば本菌の生育できる場所も失われてしまう。しかし、本菌が宿主植物の光合成活性へ与える影響を調査すると、宿主に与える負の影響は小さいことが示唆された。これらの結果、毎年感染率が高いヤナギ個体でも本菌の感染による枯死は起こらず、本菌は毎年同じ場所に発生し、世代を繋いでいくことを可能にしていると考えられた。