| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-087 (Poster presentation)
都市において生育地は人為的な物理的改変によって失われ、分断されてきた。このような生育地の分断化は植物の交配や花粉流動パターンに重大な影響を与えることが知られており、特に虫媒の植物種において強い影響を及ぼすとされる。そこで本研究では都市における生育地の分断化が虫媒樹種の花粉流動に与える影響を評価するために、名古屋市熱田区の5つの孤立林およびその周辺市街地に自生するシイ類を対象として花粉流動パターンを詳細に調査した。
調査地内のシイ類から種子親21個体を選定し、その樹冠下から採取した種子470個についてマイクロサテライト8遺伝子座を用いて以下の解析を行った。(1)父性解析によって花粉親を特定し、自殖率、花粉移入率などを算出した。(2)近隣モデルに基づいて花粉散布パラメータを推定した。(3)Twogener解析を行い種子親間の花粉プールの遺伝的分化の程度を評価した。
解析の結果、自殖率は平均で約12%と高い値を示した。また高頻度の近距離花粉流動がみられた一方で、低頻度で長距離花粉流動が維持されおり最大で約1460mであった。面積が広くシイ類の個体密度が高い孤立林では花粉流動の距離による制限がみられ、このことから花粉流動の距離は個体密度の影響を受けることが示唆された。それぞれの孤立林における他の孤立林や孤立木からの花粉移入率は約5~12%、他の孤立林や孤立木への花粉移出率は約3~17%であり、これらの値と孤立林間の距離との間には有意な関係はみられなかった。また種子親間の距離と花粉プールの遺伝的分化との間に正の相関はみられたものの、相関係数は0.3程度と低かった。これらの結果から孤立林間の花粉流動は距離だけでなく別の要因の影響も受けることが示唆された。