| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-088 (Poster presentation)
いくつかのポリネーター種には、採餌の際に特定の経路(トラップライン)を繰り返し利用する傾向がある。ポリネーターがこの行動を示す理由は諸説挙げられているが、本研究では、採餌動物の視覚能力の制約に着眼し、「花の位置を記憶して探索時間を節約する事が、トラップライン採餌の究極要因の一つではないか」という仮説を立て、屋内実験による検証を行った。
実験では、人工飼育されたクロマルハナバチを、球形の人工花が28個おかれたケージに放し、1匹ずつ5000回採餌させた。人工花は、直径6cm、2cmいずれかのものを、45cm間隔のハニカム状に配置した。このとき、隣の花の角直径は、それぞれ7.6°と2.5°となる。マルハナバチの最小視直径は3~5°であるため(Spaethe & Chittka 2003: J Exp Biol 206 3447-53)、これらの条件はそれぞれ、隣の花が見つけやすい状況と見つけにくい状況に相当する。今回の実験ではさらに、「ハチは報酬の多い花をより多くトラップラインに組み込む傾向があるのか」を合わせて調べるため、ショ糖液の分泌速度が異なる2種類の人工花を混ぜて実験に用いた。
その結果、ハチは花の大きさに関わらず、経験と共にトラップラインを形成することが分かった。しかし、花が小さい時のほうが、報酬の多い花をトラップラインに組み込む傾向が強まった。一方、花が大きい時のほうが、トラップラインを形成した後でも花間の飛行時間は短かった。
以上の結果は、「トラップライン採餌の究極要因は、視覚能力を補うためである」という仮説を支持するものではなかった。しかしその一方で、ハチは花が見つけにくい時には花間の飛行速度を犠牲にして報酬の多い花を選び、花が見つけやすい時には報酬量の違いを軽視して飛行速度を早くしていることを示していた。