| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-093 (Poster presentation)
アブラナ科草本は対植食者戦略として、きわめて特異的に、有毒な二次代謝産物であるグルコシノレートを保有している。一方で、アブラナ科をホストとするシロチョウ科チョウ類はこれを無毒にする酵素を保有し、アブラナ科草本に適応している。この解毒酵素を保有することが知られるのはシロチョウのみであり、両者のこの特異的な関係に注目し、植物と植食者の間に成立する共進化関係を解明することを目的として以下の実験を行った。
①日本に生息するアブラナ科草本の種子を採集し一定条件で栽培 ②栽培したアブラナ科草本の防御形質測定 ③日本に生息するシロチョウ科チョウ類の摂食実験 ④エリサン(Samia cynthia ricini)を用いたアブラナ科草本の毒性評価
①、②の結果、日本に生息するアブラナ科草本は高化学防御型(高グルコシノレート)、高物理防御型(中グルコシノレート、高物理、低栄養)、寛容型(低グルコシノレート、高栄養)の3つの異なった防御戦略をとっていることが示された。この結果は、植物は防御全体として、ある収斂した組み合わせの複合防護形質を持つとするplant defense syndrome仮説(Agrawal 2006)を支持する。また高化学防御のグループはその他の防御グループに比べて保有するグルコシノレートの側鎖長が長いことが観察された。③ではモンシロチョウ(Pieris rapae)を用いた実験の結果、高化学防御型を好む傾向が観察されたのに対し、④において、グルコシノレートに抵抗性を持たない蛾の一種であるエリサンを用いた結果、エリサンは寛容型で最も成長が良かった。
スペシャリストが側鎖の長いグループで成長したという結果から、アブラナ科草本の複合的な防御戦略の中においてグルコシノレートの側鎖長が対植食者戦略として重要な意味を持ち、またスペシャリストとの間の共進化関係が伺える結果となった。