| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-095 (Poster presentation)
種子の捕食あるいは散布をめぐる動物と植物の関係は、興味深いテーマだが、健全な種子の前提が多い。野外には虫害堅果も存在し、それらが利用されている可能性があるため、虫害を考慮した生物間相互作用の解明が重要である。森林性のネズミは堅果を餌とし、貯食する。ブナ科植物の堅果を摂食するのは、主にゾウムシ類とガ類の幼虫である。加害昆虫種により、胚の摂食度は異なる可能性がある。堅果の中の幼虫も餌となるので、ネズミにとっては胚の損失が補完されている段階があるかもしれない。しかし、成長した幼虫が堅果から脱出すると、その餌としての価値は大きく低下するだろう。本研究では、堅果の持ち去り時にネズミが示す、昆虫種や幼虫の有無に対する選好性を明らかにした。
クリ堅果を林内から採集し、果皮の産卵孔・脱出孔の形状から昆虫種 (ゾウムシ類 or ガ類) を、産卵孔・脱出孔の有無から幼虫の有無 (健全 or 幼虫入り or 脱出済み) を分類した。2種類ずつ堅果を組み合わせて林内の餌台に静置し、ネズミに対する供試実験を行った。餌台の前には赤外線センサーカメラを設置し、各堅果の持ち去り率、持ち去り順序、ネズミ種を確認した。この持ち去り率・順序から選好性を判定した。また、供試しないクリ堅果を切開し、内部の摂食度を確認した。
堅果の大多数をアカネズミとヒメネズミ、一部をスミスネズミが持ち去った。いずれのネズミ種も以下の持ち去りパターンは同様であった。健全>幼虫入り>脱出済みの順に選好性が高かった。脱出済みでは、ガ類よりもゾウムシ類に加害された堅果を選好する傾向を示した。しかし、堅果内部の摂食度は、ゾウムシ類による加害堅果の方がガ類よりも大きかった。したがってゾウムシ類の場合は、幼虫の存在が堅果の餌としての相対的な価値を高め、ネズミによって堅果が持ち去られる可能性を高めていると考えられる。