| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-108 (Poster presentation)
果実が美味であることが知られるバンレイシ(Annona)属のチェリモヤは南米原産の植物で、小型の甲虫類が花粉媒介に携わると考えられている。日本国内の栽培では現在人工授粉により結実させているが、その花の特性から非常な困難を伴うため、原産地同様に花粉媒介者利用が望まれている。日本では在来のケシキスイムシ科小型甲虫がチェリモヤの花に集まることが確認されている。これらは主に果実食であるため、花が甲虫を誘引する為に何らかの化学的手段を講じている可能性がある。本研究では、バンレイシ属(チェリモヤ・アテモヤ・バンレイシの3種)について、それぞれの花香を吸着剤Tenax TA を用いて捕集し、GCおよびGC-MS分析によって花香成分の構造推定と比較を行った。同様にそれぞれの果実並びに他植物10種の花香と5種の果実香についても捕集・分析を行った。各構成成分を多変量解析にかけたところ、バンレイシ属の花香は他の一般的な花香組成よりも果実香組成に似た特徴を持つことが示唆された。一般的な花香と比べてバンレイシ属の花香を特徴付けるのはエステル化合物やアルコール化合物で、これは一般的に果実香を特徴付ける成分でもある。この解析結果は、バンレイシ属の花が果実様の香りを放つことで果実食の小型甲虫を誘引しているという仮説を支持する。ケシキスイはまた、開花初期の雌ステージの花には集まるが、開花後約48時間経過した雄ステージの花には集まらない。そのため花のステージごとに花香の放出量を比較したところ、雌ステージに比べ雄ステージの花香放出量が有意に増加していた。このような量的な変化だけでなく、GC-MS分析の結果から花香成分組成にも変化がある事が明らかとなった。個々の花香成分が小型甲虫の行動に与える影響については更なる検証が必要であるが、バンレイシ属花香はケシキスイ誘引活性物質を含むならば、同甲虫を花粉媒介者として活用できる可能性がある。