| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-109 (Poster presentation)
被食散布では、散布者の種類によって種子の散布距離が大きく異なる。哺乳類では種子の散布距離を算出することが困難である場合が多く、多くの先行研究において散布者の単位時間あたりの移動距離と種子の体内滞留時間を掛け合わせることで、種子の散布距離を推定する方法がとられてきた。しかし、近年ではこうした推定値が実測値とは異なる可能性も示唆されている。そこで本研究は、種子散布距離の実測が容易であるホンドタヌキ (以下、タヌキ) を対象として、先行研究で用いられた手法によって算出した種子散布距離の推定値と、野外で実際に測定した種子散布距離との違いの有無を検証し、その要因を検討することを目的とした。
飼育個体3個体に対して、種子に形状が類似したプラスチックマーカーを用いてタヌキの体内滞留時間の測定を行った。また、東京都八王子市にて、2012年および2013年の秋季にタヌキの捕獲を行った。捕獲した4個体に、自動的に位置情報が測位可能な首輪を装着した。そして、タヌキの30分間隔の移動情報を取得した上で、前述の体内滞留時間と掛け合わせ、タヌキの種子散布距離の推定値を得た。さらに2013年秋季に同調査地にてビーズを埋め込んだ餌を複数箇所に設置し、事前に見つけておいたタヌキのタメフン場の糞からビーズを回収することで、ビーズの移動距離からタヌキの種子散布距離の実測値を得た。
その結果、調査地内で行動していた個体の行動情報を用いて算出した種子散布距離の推定値と、実測値に有意差は認められなかった。このことから、従来の種子散布距離の推定法は、動物の移動距離の情報を取得した地域とその時期における、その動物による種子の散布のパターンを把握するのに有効であると考えられた。