| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-048 (Poster presentation)
生息地外に導入された生物は生息地との環境の違いを必ず経験し、その違いに順応できた種のみが新天地に定着可能となる。生息地とは異なる環境の地域へ導入された生物がどのような生態的挙動を示し定着するのかという仕組みの理解は、外来生物による影響の予測や対策を行ううえでの重要な生物学的基礎となる。
魚類では再生産や生残と密接に関わる成熟や成長が、水温や日長に強く影響されることが知られる。本研究では、温帯域である神奈川県金目川に近年定着が確認された亜寒帯性のフクドジョウに着目し、成熟と初期成長を調べて自然分布地における既往知見と比較することで、その違いとそれをもたらす環境要因について検討した。
2012年4月~2014年1月に採集した個体の生殖腺の発達状態を調べたところ、雄では生殖腺指数(GSI)の明瞭な季節変化は認められなかったが、8~11月を除いて排精個体がみられた。一方、雌ではGSIが2013年3月に最も高くなった後、5月までに急減したことから、金目川における産卵期は概ね3~5月と考えられた。
2013年6月以降に採集した当歳魚の成長と生殖腺の発達状態を調べたところ、標準体長の平均は2013年6月の40㎜から2014年1月の86㎜まで増加した。1月では雌でGSIが高く、雄で排精個体がみられ、いずれも性成熟していた。
神奈川県金目川における本種は、既往知見のいずれ(北海道、シベリア、カムチャッカ)よりも産卵期のピークが早く、成長が速かった。一般に亜寒帯域に比べて、温帯域の春の水温上昇は早く、秋の水温下降は遅い。金目川では、春の早い水温上昇で産卵期が早まったことに加えて、秋の遅い水温下降で当歳魚の成長適期がいっそう長くなり、速やかな成長と短期間での性成熟が達成されたと考えられた。